hiiragi_ing──静けさを構築する、日本発アンビエント/IDMの現在

音楽には、「何を足すか」で成立する作品と、「何を残すか」で成立する作品がある。

日本・静岡を拠点に活動する hiiragi_ing の作品は、明らかに後者だ。

アンビエント、IDM、ダブ、即興演奏、フィールドレコーディング──それらの要素は確かに存在する。しかし、どれか一つのジャンルに収まることはない。反復するリズム、わずかに揺らぐ音程、時間の経過とともに変化する質感。それらはメロディを主役に据えるのではなく、「空間そのもの」を少しずつ書き換えていく。

近年の作品では、ビートの存在感が増している。とはいえ、そのビートはダンスフロアを目指すものではない。一定の脈動を保ちながら、周囲の残響やノイズ、ディレイと溶け合い、聴き手の知覚をゆっくりと変化させていく。リズムは推進力ではなく、時間を測るための座標として機能している。

ライブでは、その思想がさらに明確になる。

hiiragi_ingはノートPCを中心としたライブセットではなく、ハードウェア機材を組み合わせ、演奏と音響処理をリアルタイムで積み重ねる。ループ、ディレイ、フィードバック、偶発的な変化を受け入れながら、一つの音が次の音を呼び込み、数十分をかけて一つの空間を形成していく。

その活動を象徴するのが、自ら企画・運営するライブシリーズ「祝場(Shukuba)」だ。

静岡・蒲原に残る築約200年の旧醤油醸造蔵を舞台に、アンビエント、シンガーソングライター、即興演奏家など、多様な表現者が集う。会場の木造建築が生み出す自然な残響は、ライブの一部として作品へ組み込まれ、その記録は継続的に映像として公開されている。ここで重要なのは、祝場が単なる自主企画ではないということだ。場所、音、映像、記録が一体となった、一つの継続的なプロジェクトとして成立している。

また、hiiragi_ingは映像表現にも積極的だ。幾何学的なアニメーションや抽象的なビジュアルを自ら制作し、音と映像を分離したメディアではなく、一つの作品として提示している。そのアプローチは、いわゆるMVの枠を超え、オーディオビジュアル作品としての性格を強く持つ。

情報量が過剰になり続ける現代において、hiiragi_ingの音楽は「聴かせる」ことよりも、「聴くための空間をつくる」ことを目指しているように思える。

それは静寂ではない。

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https://hiiragi.tv

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SoundCloud
https://soundcloud.com/hiiragi_ing

祝場 – Shukuba
https://shukuba.org

Selected Works

syn
https://youtu.be/o0YOVKaIS0c

Faint Emotional Cue, Enduring
https://youtu.be/rK7YJC6NNHU

monovel (Live at Shukuba 22)
https://youtu.be/xIXdAJxXv_I

やまのぼらず – ping (Live at Shukuba 22)
https://youtu.be/8pqtJzlY3Tw

やまのぼらず – Tangent arc
https://youtu.be/X_8bPLQT2b8

hiiragi_ing is an experimental ambient / IDM artist based in Shizuoka, Japan. Through live electronics, improvisation, and audiovisual works, he explores the relationship between sound, space, and time. He is also the curator of Shukuba, a recurring live series held inside a 200-year-old former soy sauce brewery in Japan.

時間の流れそのものをデザインする試みであり、音の密度ではなく、音と音のあいだに存在する余白に耳を澄ませるための音楽である。

日本の実験音楽やアンビエントシーンは長年にわたり独自の発展を遂げてきた。hiiragi_ingはその系譜を受け継ぎながらも、ライブ、映像、空間、継続的な自主企画を通して、新しい形のオーディオビジュアル・アーティスト像を提示し続けている。

まだ広く知られた存在ではない。しかし、その作品群を追っていくと、一つひとつのライブ、一つひとつの映像が、長い時間をかけて積み重ねられた一つの大きなプロジェクトの断片であることに気付くだろう。

その断片は、これからさらに大きな風景へと繋がっていくはずだ。